もののみる夢

  • 2013.02.25 Monday
  • 16:33
 本題前にいくつかお知らせです。

 ひとつ。今週の土曜日3月2日は、ほんのちょっと早めに閉店します。いつもの土曜は19:00までですが、当日のみ18:00で終了します。
 ご迷惑おかけして申し訳ありませんが、何卒宜しくお願い致します。

 ふたつ。きのう、中村綾緒さんの写真展が無事に幕を閉じました。昨年の11月から年をまたぎ、作品がお店にも随分なじんでいたものだから、つい寂しくなります。。
 中村さんには本当に長らくお世話になりました。あらためてお礼を。ありがとうございました!
 それに、搬入搬出にお手をかして下さったご家族の皆さま、お忙しいなか打ち上げにいらして下さった前野さん、重ね重ね深謝です!
 なお、中村さんの写真集は、今後も弊店でお買い求め頂けます。ご覧になるだけでも構いません。どうぞー。

 この3月には、茨城県でも展示なさるそうです。仙台からも割合遠くないので、よかったらドライブがてらぜひ。これから暖かくなりますしね。

 ★「あつめたひかりをそらにかえすツアー」in かさま
  会場:カフェ・ギャラリーかしゃま文化会館(茨城県笠間市笠間2305-1)
  会期:2013.3.6-3.31(月火定休)
  時間:12:00-18:00
  料金:無料
  備考:最終日3.31は18:00-21:00野外投影会(参加費¥500)


 みっつ。中村さんに続き、次の展示が3月8日から始まります。かねてからの予告どおり、写真家の志賀理江子さんです。
 詳しくは追々ご報告しますね。チラシもせっせとこしらえ、近日中には市内要所に配布する予定。お楽しみに!!

 タイトルは「นัดบอด/ブラインドデート 志賀理江子」。2009年にバンコクで撮り溜められた写真です。


 次のホームページでも情報を掲載して頂いています。多謝!

 ★ IMA ONLINE:写真雑誌『IMA』のウェブ版
 ★ チルチンびと広場:雑誌『チルチンびと』のウェブ版

 ようやく本題です。
 先般、市内のギャラリーSARPさんのホームページに、青野文昭さんの展評を書かせて頂きました。せっかくなので、こちらでも公開します。よかったらご笑覧下さいませ。今夏には、あいちトリエンナーレ 2013にあわせて、弊店でも展示して頂く予定になっています。乞うご期待!
 なお、過去に展示した記録はこちらからご覧頂けます。

***

青野文昭展「転生 −それぞれの地表・流出・移植− 」
2012.12.4〜12.9
SARP スペースA、B

 もののみる夢

 とりとめもない記憶が突出し、思いもよらない組み合わせが現れる。夢にはよくあることだ。同様に、汚れなど些末な痕跡が跋扈しはじめ、場違いな日用品が結集する。青野に拾われたものたちもじつは夢を見ている。彼の思い描く夢が託されているわけではない。かえって、ものの方こそが人の神経系をとおして夢みているのだ。
 夢にとって記憶の古さや遠さは関係ない。すべて等しく素材たりうる。形跡を留めるもとの規格は言うに及ばず、経年の汚れや歪みまで一緒くたに動員される。あげく、あまり縁のない他のかけらまで紛れこむ。模様や染みが拙い絵筆に置き換えられ反復し、かけら同士がちぐはぐにも拘らず、同じ角だからと圧縮される。そのうえ、夢作業は細部ごとに進行し、辻褄を頓着しない。荒唐無稽になるのは宿命だ。

 なおす・延長「震災後ゆりあげで収集した欠片の復元」、2012
 ※ 以下の画像はすべて青野さんのホームページより転載


 ところが、どんなに歪さが増しても作品は一向に破裂しない。むしろ、概ねきちんと矩形に収まる。というのも、そもそもモチーフに選ばれるかけらが矩形の面影を残すものばかりだからだ。欠落を取り繕うことが作品の動因である限り、夢作業が矩形を無視することは叶わない。それは夢を統制する理念として作用する。細部がいくら意味不明に暴走しようと、常に既に補填という意味が担保されることになる。存外これは根が深い。なにも予定調和を招きかねないからというだけではない。理念としての矩形とは、とりわけ大量消費材にとり、その合理性ゆえ資本主義の生産過程に規定されている。端的に生産しやすいのだ。この安易さが、生産ラインを決定し、労働力に枠をはめる。だが言うまでもなく、夢の生産が資本主義に従わねばならない謂れはない。


 矩形への抵抗を今展に見てみよう。ふたつ指摘しうる。
 展示そのものは二部屋に分かれていた。一方が一点ずつ独立する配置だったのに対し、他方は同じモチーフの作品が群れをなしていた。なお、素材はすべて被災地で採取されたという。
 まず前者では、従来どおり雑多なモチーフを見ることができた。カセットテープや伝票、それに机など。床から壁までさまざまに展示されていた。なかでもあえて一点に注目したい。ひしゃげたトタンを仲立ちにふたつの箪笥を繋ぎとめる作品だ。箪笥が傾ぎ、今しも弾みでずれてしまったかのよう。あたかも地震の再演だ。さりとてそれも、トタンの歪みから引き継がれ、躯体の傾斜に置換した結果にほかならない。つまり、夢作業の遂行が箪笥を倒しかつ引き留めてもいる。反復強迫さながらに、悪夢を繰り返して徹底操作を試すのだ。地震が悪夢を強いるのではない。むしろ夢こそが地震を起こす大地に代わる。夢作業を遂行するうち、その連鎖じたいが足場となり作品の編成を触発する。いまや夢作業は欠落を埋める手段ではなく、自己生成の条件をなす。このとき、モチーフの矩形はほとんど作品に寄与することなく、付随物に格下げされる。

 なおす・代用・合体・連置「震災後石巻で収拾したトタンの復元」、2012

 後者の展示では、矩形が頻用されるあまり、それが織りなす平面にむしろ埋没していた。低めのテーブルが多数、会場中央へ寄せられる。天板はどれも角を欠き、床材や道路のアスファルトと圧縮される。四つ脚をてこに地表が一斉に引き上げられるのだ。脚の長さが不揃いのため、隆起や陥没は避けられない。浮遊する大地の起伏は、津波との置換をも担い、テーブルは再び波間に漂流する瓦礫と化す。天板どうしが連鎖して、茶の間や大地、海原などいくつも夢を発生させる。もとより寄る辺を奪われた瓦礫だったのが、さらに複数の夢へ漂い始める。いわば、居場所のないこの現実に留保を挟み、夢を渡り歩くその過程が住処になる。単体のものばかりか、ものたちの群れもまた夢を見る。ものはその身を群れに供し、夢を編み上げるかけらのひとつに身をやつす。天板の矩形は、かけらでこそあれ、全体を統べる理念には到底及ばない。


 一方は、矩形に頼らず夢作業の連鎖をそのまま足場とし、他方は、矩形の平面を踏み台に夢みる水準を桁上げする。そうしてともに矩形の理念を骨抜きにしてしまう。ただし、夢を奪還したところで好き勝手は許されない。それは独自に欲望を追求し、夢みる当人さえ翻弄する。かといって絶縁も叶わない。まずは逆らわず、その挙動を伺うに如くはない。見落としかねない痕跡に耳をそばだて、欲望の兆しに手をさしのべる。いっしょに夢作業を紡ぐのだ。その連鎖をとおして、ものは途方もない夢を見るだろう。夢みるものの欲望に譲歩しないこと。これが青野の倫理であり、制作における自由を裏づけている。
 ところで、作品のタイトルや青野の発言から察するに、被災の衝撃は少なからず尾を引いているようだ。だがそれにも拘らず、従来との違いを作品の組成から見てとることは難しい。上述した前者の傾向、すなわち夢作業の徹底も決してこれが初めてではない。ただ、地震が構造にまで深く達している点において今作は際立っていた。他方、後者に類する作品(インスタレーション?)はおそらく初めてなのではないだろうか。震災が同時かつ広範に瓦礫を大量発生させたためなのか、ものどうしが織りなすその場じたいが問われている。どうやら、単体を越えてその環境なり背景にまで射程が延びつつあるようだ。今後の展開を楽しみにしたい。

★ 注
 かつてフロイトは、精神分析が膾炙するに及び、その著書『夢判断』(1900)に何度も筆を加えた。なかでも、次に引用する一節は、夢へアプローチしようと試みる者には欠かせない指摘だ。拙稿にとっても例外ではない。
 当時、夢の潜在的な内容に執着する学徒が増え、それを憂い、諭している。
 「彼らは夢の本質をもっぱらこの潜在的内容に求めて、そのさい、潜在的夢思想と夢作業とのあいだに存する相違を見のがしてしまうのである。夢というものは結局、睡眠状態の諸条件によって可能になるところの、われわれの思考の一特殊形式以外のものではない。この形式を作り出すのがほかならぬ夢作業である。夢作業のみが夢における本質的なものであり、夢という特殊なものを解き明かしてくれるものなのである」(『夢判断 下巻』高橋義孝 訳、新潮社、1960、255-256頁)。

(高熊洋平/古書籍商)


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