仙台文庫創刊! 続

  • 2011.02.11 Friday
  • 17:52
 引きつづき、今回も仙台文庫の創刊タイトル、うち残り1冊をご紹介いたします。
 著者は、前回の前野さん同様、仙台ゆかりの方。齋正弘さんです。もう30年も、宮城県美術館で教育普及を担当なさっています。
 本書は、その実例報告と理論化の試みです。とはいえ、議論が専門領域に閉じることは決してありません。むしろ、豊富なエピソードと噛み砕いた論調が、小気味よいほどです。
 そして何より、書中再三立ち返る場所というのが、子どもも大人もみな立ち到らざるをえない、普遍的な問題なのです。すなわち、見ることそのものの基礎です。

 『大きな羊のみつけかた 「使える」美術の話』齋正弘 著、メディアデザイン、2011、¥940+税
   目次:
    まえがき
    美術を使おう
    保育園児と大学生のための「美術を考える授業」
    小学生と中学生のための「美術って、本当のところどうなんですか?」
    美大の学生のための「写真機ができても絵を描くことを続けるのはなぜか?」
    美術/図工の先生のための「美術/図工教育は何のためにあるのか?」
    美術館を使おう
    美術としての教育、教育としての美術(宮城県美術館から見た美術教育)
    学校と美術館の連携のために
    表現行為としての鑑賞(本物を見るということは、何を見ることなのか)
    美術であるということ(障害者美術展に関わって)
    質問に答えて
    美術の使い方・実践編
    あとがきとして


 「ものを見て判断する場合、依るべき規準として使う事ができるのは、その時、その人の脳に、既に保存されている記憶、又は経験だけです。鑑賞するときに使えるのは、実は、それをしている人(注:ここでは、とりわけ子ども)が既に知っていることだけなのです。そのとき彼らに教えられることは、既に持っているモノの使い方だけで、新たな智識や技術が、今まさに使おうとしているその時点で入ってくることは、むしろ混乱や、自分の記憶、経験に対する自信のゆらぎにつながります」。

 だとすれば、子どもにとって、この際「作者の想い」や「美術館の権威」など余計な知識は度外視されなければいけません。むしろ、今ここの経験に留まり、見えるものに内在すること。そして、記憶もろとも身をそこへあずけることこそ要請されているのです。
 そのうえで、そこから立ち現われるヴィジョンを捉まえること。つまり「『作品から読みとれることだけ』を使って、『自分のお話』を『組み立てる』作業」だけが、「鑑賞」教育を結実させるのです。受け身の授業法と対比して、齋さんはこれを「表現として見る行為」と呼んでいます。

 しかし、そうすると、大人が子どもにしてやれることなど、何が残っているというのでしょうか?なにしろ、知識や見方の教授には、もはや正当性がないのです。

 「彼ら(注:子ども)に伝えるべきは、新しい見方ではなく、見ているものから読みとる方法と、それをもとに、自分の既に持っている情報をどのようにそこに絡んで使うか、というような部分です。既に知っていることを縦横に使ってみることによって、もっと知るべき(知りたい)方向と深さが、自ずと見えてきます」。

 したがって、大人も、子どもが作品に内在するように、作品に内在する子どもに内在する必要があるわけです。子どもが作品のどこと触れ合い、その接点がどこへ延びようとしているのか(「接点をどこへ延ばそうとしているのか」ではない。あくまで主語は接点だ)。大人の役目は、それを鋭く察知し、すげなく絶やさないよう現場を微調整することに限られます。

 そして、まさにその実践の記録にこそ、本書の賭金が張られています。
これは、知識とは異なり、体系化することはついぞ叶いません。徹頭徹尾、齋さんの経験に根ざしたものであり、その固有さを差し引けば、ほとんど意義が失われてしまうでしょう。
 その経験は、ただ読み、辿り直されることを通して再構成されるより他ありません。しかし、だからこそ、内側から多様な気づきやヒントが得られるはずです。

 本書の射程は、美術や教育だけに限られません。美術をとおして、世界との関わり方が示されている以上、すべての人(生物)に宛てられています。色んな方に応用して頂けたら嬉しいな。
 仙台文庫『ブックカフェのある街』(前野久美子 編著)とともに、弊店にて扱っています。ぜひどうぞ!

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